おばけ屋敷・アミューズメント施設・イベント企画 制作　オフィスバーン

地下室の子守唄

引き裂かれた写真を合わせるお化け屋敷

姑の安枝は、菖蒲と育生が一緒に映っている写真を、すべて引き裂いてしまいました。
そんな菖蒲の思いを叶えるために、安枝の懐から育生の写真を抜き取り、菖蒲の手元にある写真と合わせてあげてください。会えなくなってしまった母と子を合わせてあげること。それが、お客様のミッションです。
 
泉鏡花の小説「草迷宮」の世界感をモチーフに書き下ろした、金沢会場限定のオリジナルストーリーです。
 
■公式ページ：金沢竪町お化け屋敷　地下室の子守唄

ストーリー

歌を忘れたカナリアは　後ろの山に棄てましょか
 
この町に、建設会社に勤める草間という男がいました。草間には菖蒲（あやめ）という妻がおり、姑の安枝と同居していました。
安枝は、病弱な菖蒲のことがあまり好きではありません。家の中には何かというと刺々しい空気が流れますが、気弱な草間はそれを取りなすこともせず、むしろ仕事にかこつけて家になかなか帰ってこようとしません。
そんな草間の家庭に、育生という男の子が生まれました。草間も菖蒲もとても喜びましたが、それ以上に喜んだのは安枝でした。孫が可愛くてたまらない安江は、何かというと育児に手を出してきたがります。実際、菖蒲は産後の肥立ちが悪く、床に伏せっていることが多いため、安枝の手を借りなければ満足な子育てもできません。
菖蒲が横になっている隣の部屋で、育生のおむつを替えたり、ミルクを与えたり、あやしたりする声が聞こえてきます。それを聞いていると、菖蒲は病弱な自分の不甲斐なさに涙がこぼれてきます。
けれど、唯一菖蒲が自分を母親だと感じる時があります。それは、ある子守歌を歌うときです。あやしてもあやしても育生が泣き止まないとき、菖蒲は横になったまま襖ごしに子守歌を歌います。すると、不思議なことに育生はピタリと泣き止んで、やがて眠ってしまうのです。
病弱な菖蒲に代わって育生の世話をしている安枝にとって、このことは悔しくてたまりません。自分があやしても泣き止まないのに、菖蒲の子守歌で泣き止んでしまう育生が憎たらしく感じられます。けれど、何よりも憎いのは、寝たまま歌を歌う菖蒲でした。
育生には泣き止んでほしい。でも、菖蒲の歌では泣き止んでほしくない。
安枝はこの家では自分が一番力を持っていると思っていたのに、子守歌がそれを崩してしまいました。
毎日毎日、襖ごしに菖蒲の陰気な子守歌を聞くうちに、家の中は赤ん坊を間に挟んで、嫉妬や愛憎が絡み合う濃密な空気になっていきました。
このことに耐えられなくなった安枝は、あることを思いつきます。
子守歌がなくなればいい。
安枝は、菖蒲の滋養のためにと言って、ある薬を草間に渡しました。
草間はそれを菖蒲に飲ませ始めますが、一向に元気になりません。それどころか、肌が黒ずみ始め、髪の毛は抜け、目はかすみ始めます。その薬には、体の中に蓄積される毒が入っていたのです。
日に日に菖蒲は弱っていきます。けれど、あの子守歌を歌うことは止めません。育生が泣くと、消え入るようなか細い声で歌い始めます。微かな声にも関わらず、その歌が聞こえてくると育生は泣き止みます。
今ではもう自力で起き上がることもできないほど体が弱っているのに、それでも菖蒲は子守歌を止めません。
やがて子守歌が家の中から消えました。それは菖蒲の息が絶えた時でした。
 
死んだ菖蒲を前に、安枝は草間に言いました。
私は子守歌を止めるために薬を渡していたんだ。死ぬまで飲ませろと言ったわけじゃない。お前が薬を飲ませ続けたせいで菖蒲は死んだんだ。
安枝は草間に責任の一端を担わせると、死体の処理を指示しました。
その晩、草間は建設途中の工事現場に忍び込み、菖蒲の死体を地下の壁の中に埋め込んでしまいました。
 
それからというもの、夜中になるとこのビルの地下から子守歌が聞こえてくるということです。
それは、子供を求めて彷徨い歩く菖蒲の子守歌です。
 
歌を忘れたカナリアは　背戸の小藪に埋めましょか……。
 
どうか、その歌声をたどって、郁生を探し求める菖蒲を探してきてください。

PHOTO

概要